「あのさー」 「んー?」 「ずっと気になってたんだけどさ」 「何が」 「この状況」 「あ?」 「だから、今のこの状況。正確に言えば、今アヴェロンがやってる事」 「あー。っと、どうでもいいけど頭あんまり動かすなよ」 「知らないよ。別にオレが頼んでる事じゃないんだから、言われる筋合いない」 「いーからジッとしてろって」 アヴェロンはそう言いながら、買い物の途中、気前の良い店員がオマケだと言って袋に入れてくれた幾つもの髪飾りから、一つを取り上げる。 「で?」 「──で、じゃなくってさ……。毎日違う髪形にする必要、あるわけ?それに何でそんなに手馴れてるんだよ、髪を纏めるの」 アレクはそう言って、深々と溜息をつく。 諸事情により女装なる手段と共に旅を続けているアレクの髪を、毎朝毎朝アヴェロンは纏め上げていた。それも単純に纏めるだけには飽き足らず、様々なバリエーションでもって。 今日は何やら複雑に編み上げた髪を、更に纏め上げている始末。 「あー……そりゃあ訓練の賜物」 「は?」 「もしくは昔取った杵柄」 「──益々意味不明」 「ガキの頃に、な」 そう言いつつアヴェロンは漸く纏め上げたアレクの髪に、仕上げとばかりにさっき選び取った髪飾りをつけて、終了、と呟く。 「妹の髪をくくるのに、母親に仕込まれた」 「え?!妹?!」 「──何でそこでそんなに驚くかね、お前は」 「いや、だって……」 驚くな、という方が無理だ、とはアレクの胸中の声。 出会ってから随分経つけど、彼の家族の事を聞くのは初めてだった。 人の事にはやたら構うし気にするくせに、自分の事はあまり話さないのだ。アレクが訊かないから、というのも要因の一つなのかもしれないが、それでも彼の口から家族の事が出た事は今まで本当に一度もなかった。 「まあ話した事ないから仕方がないか。妹が一人居てさ、まーたこれが普通にくくっただけじゃ一向に満足しないわけよ。だからといって母親も毎朝そんなに暇じゃないから、毎回凝ったくくり方なんざしてられないし、でも妹は嫌だって駄々をこねるし、で。おはちが俺に回ってきたわけ」 そう言ってアヴェロンは苦笑する。 「相手が手馴れた母親だろうと、手先があんまり器用じゃない兄だろうと、気に入らなきゃ嫌だって容赦なく泣かれちゃあ、嫌でも腕が上がるってなモンでさ。自分である程度出来る様になっても、人にやって貰うほうが楽だし仕上がりも綺麗だからって、結局最後まで俺が纏めてたな」 「──最後って……」 懐かしそうに言われたアヴェロンの言葉に、瞬間アレクは戸惑ったようにそう声を零した。その声に、アヴェロンは思い出した様に付け加える。 「あ?ああ、言い方が悪かったな。養女に出る最後の最後まで、が正確」 「養女?」 「そう。俺らがまだガキの頃に母親が他界してな。親父一人じゃ大変だろうって事もあって、親戚夫婦の所に養女に入ったんだ。えーと、母方の伯父の所だったかな。伯母が子供を産めない人でさ。それで、じゃあ妹を宜しくお願いしますって事になった。俺より3つ下だったから、アレクの1つ上だな」 アヴェロンはそう言って、懐かしそうに笑う。 「母親に似て器量良しだったから、今頃はもう嫁に行ってるかもしれないな」 「そんな人事みたいに……。会ったりしてないのか?」 「してないなあ。最後に会ったのは……あれ?何時だ……?」 そう言って首をかしげるアヴェロンに、アレクは小さく苦笑した。 「覚えてないほど昔なわけ?」 「あー……そう、だな。そうなるな。多分……10年くらい会ってない」 「……どうして?」 「いや、どうしてって聞かれてもなあ。妹……ルージェってんだけど。ルージェを養女に出してから親父と俺は旅暮らしって感じだったからなあ。一度会いに行くかって話になった時もあったんだけど、あの時は親父が大風邪ひいて取りやめたのかな。それから後はズルズルと…って感じで。まあ何かあったらラギシオ達の所に連絡が入ってる筈だし、便りのないのは元気な証拠だろ」 そう言って笑うアヴェロンに、アレクは再び苦笑する。 「でも、さ。オレが言うのも何だけど」 「ん?」 「会える時に会っておくべきだと思うよ?って言うかさ。……絶対、心配してると思う」 「あ?」 「連絡一つ寄越さない薄情な兄さんの事」 「……薄情ってお前………」 「だって10年って長いよ?その上、連絡取ろうにも旅暮らしなんてされてたら、妹さんからは絶対無理だし。ちゃんと連絡、したら?喜ぶんじゃない?」 「いや、そうは言ってもなあ」 「そうは言ってもなあ、じゃないよ。……ここから遠い?」 「は?」 「………だから、は?じゃなくってさあ。妹さんの住んでる所」 「あ、ああ、いや。そう遠くはないけど……問題が、一つ」 「問題?」 「……衛星都市、なんだけど」 アヴェロンの答えに、アレクは暫し、言葉を失う。 「………衛星……?」 「そう」 アレクの呟きに、そう頷く声が返る。答える表情が、意地悪く微笑んでいる様に見えるのは、被害妄想ではない筈だ。 ……性格悪すぎ。 内心でそう呟き、暫しの空白をはさんだ後、同様かもしくはそれ以上に意地悪く微笑み返してやりながら、答える。 「──許可」 と。 その途端、アヴェロンが目を丸くする。心底驚いた表情に、アレクはしてやったりと内心で拍手をしたりなんかした。 「へ?」 「だから、許可。折角なんだから行こうよ」 「ちょ、ちょっと待てアレク。……正気か?」 「正気だよ。……衛星都市だって言えば、行かないって返すと思ったんだろ?残念でした」 べーっと舌を突き出して、アレクはさっさと途中止めになっていた荷造りに戻る。荷造りとはいっても、もともと荷物は多い方ではないから、さして時間がかかるものでもない。 唯一増えてきて困っている、女性物の服やら髪飾りやらは、アヴェロンの荷物の中に放り込み、それから未だに呆然としているアヴェロンを見やる。 「いつまで呆然としてるつもりだよ?」 そう言われて、漸くアヴェロンは我に返った。 「いや、待てアレク。お前、どこまで本気なんだ」 「どこまでも何も、全部本気」 だって会えるのなら、会える時に会っておかなきゃ、きっと後悔するよ? その思いを口にするの事はしなかったけれど、それが本心。 「だって会ってみたいよ、アヴェロンの妹さん。遠くないなら良い機会だし、行こう?」 「………お前、俺を困らせて楽しんでるだろう、実は」 「被害妄想」 「あのな……」 「行った方が良いって気がするんだよ。ホラ、早く」 アレクはそう促して。二人分の荷物をアヴェロンに押し付けると、さっさと部屋を出る。 「……やれやれ」 そう呟きつつ。アヴェロンも部屋を出る。 「………まあ、いいか」 先に階段を降りて行くアレクの後ろ姿に、結局そう呟いて。 宿の支払いを済ませると、二人は街を出る。 「……そう言えば、さっきの話に立ち返るんだけど」 「あ?」 珍しくアヴェロンを困らせる事に成功して、いつになく上機嫌だったアレクが、不意にそう言って振り返る。 「さっきの話?」 「オレの髪の毛」 「……何?」 「なんで毎日違う髪形にする必要があるのかって事。別にこんな複雑な髪形にしなくたって構わない事ない?」 「ああ、まあ確かにな。でもな、髪型一つで印象違うぞ?あんまり一所で覚えられてない方がいいだろう。それでなくてもお前、目立つんだし」 「目立つ?」 「そう。黙って立ってりゃかなりの美人だからなー」 「……喧嘩売ってる?」 「別に?事実だし。……そう怒るなって、仕方ないだろ目立ってるのは確かなんだから。……まあ、そういう事で、小細工だけどしないよりはマシだろって感じかな」 そう言って。 そんな意図があったのか、と目を丸くしていたアレクを見下ろしたアヴェロンは。 それに、と付け加える。 「……それに?」 不思議そうに自分を見上げてくるアレクに小さく笑って。 「お前が嫌がるのが、楽しいってのも、ある」 「アヴェロンッ!!!!!」 あまりにもあまりなその言葉に、アレクがそう声を上げた時には、既にアヴェロンは脱兎の如く駆け出していた直後で。 不意をつかれた逃走に、さらに長ーいスカートを着ている状態で追いかける事も出来ず。 少し先で立ち止まり、実に楽しそうな笑みを浮かべて自分を待っているアヴェロンに、アレクは盛大な溜息を一つ零し。 くそう覚えてろよッ!等と心に誓い。 それでもその後を追うのだった。 アレクの『覚えてろよ』の誓いが、さてどの様にアヴェロンの身に降りかかったのか、は。 ご想像にお任せいたします(笑) 03/05/13 UP |
■ってな事で。またしても『ロード』の番外編です(汗)
キリ660ゲット、有哉様リクエスト話、ようようUPにゴザイマス……;;
お題は『旅の途中、アレクがちょっとほのぼのするようなエピソード』でしたー。
アヴェロンとの些細なやりとりでホノボノと、との事だったのですが。
しかし……ホノボノか、コレ?
いやまあ、「アヴェロンが相手なのでホノボノというより、爆笑エピソードかも…」
と事前に言っておいたので、許可だったようです(笑)
■※ロード本編をご存知の方への注釈※
時期的には……いつだろー(笑)
多分……第2章終了後、第3章前、だと思います。はい、多分…。
■※ロード本編をご存知ない方への…謝罪※
またしてもオフライン作品の番外話で申し訳ございませんー;;
さくさくっと無視してください(爆)
とりあえず『ロード』と言うお話の番外編です。
アレク、というのが本編主人公です(笑)
■気分的にとっても書き逃げ……?とか思わずにはいられない(爆)
『ご想像にお任せします』の、辺りが(笑)
……そして、またしても何やら言い訳したい事たくさんあった気がするんですが。
この場になると頭の中真っ白になってしまいます……;;
……いや、思い出した!!!!!
最初の有哉さんリクは別のお題でした。しかし……あまりに書きあがらない、と言うか。
とてつもなく長くなりそうだったので、お尋ねしたならば、リク変更になりましたー…;;
■このようなお話ですが、謹んで有哉さまに捧げますvv
リクエストありがとうございました、有哉さんvv