LOVE GAME 1

「お邪魔しまーす」
 越野はそう言いながら、仙道の後に続いて部屋に入った。
「適当に座ってて。今、何か飲み物持って来るから」
「ん、サンキュ」
 仙道の言葉にそう頷き、越野は床に腰を降ろした。
「あ、本ならそこのテーブルの上にあると思うから、持って帰れよ」
「分かった」
 そう答え、越野はテーブルの上の目的物に手を伸ばす。
「はい、コーヒー」
「サンキュ」
 そう言って越野は差し出されたコーヒーカップを受け取る。仙道は自分のカップを手にしたまま、ベッドに腰掛けた。
「あ、そうだ仙道!」
「何?」
 と、その突然の越野の言葉に、仙道は目を丸くして答える。
「そういえばお前、昼間の俺の質問に答えてないぞっ」
「質問?」
「そうだよ!」
 越野はそう声を粗げた。
 いつものパターンで、話を逸らされていたのだ。
 かなり時間が経った今頃になって思い出すのも、間が抜けていると思うが、でも取り敢えずそれは気にしないことにする。
「好きな相手がいるのかどうか!答えてねえぞお前っ」
「そうだっけ?」
「そうなんだよっ」
「そうだったかな……。そういえば、そんな気もするけど」
 仙道はそう言って、曖昧な笑みを浮かべる。
 そんな気もするもなにも、意図的に話を逸らしたのは、ほかならぬ自分なのだが。
「どうなんだよ」
「どうだと思う?」
「分かんねーから訊いてるんだよ、俺はっ。いちいちはぐらかすんじゃねえよ、お前は」
 越野はそう言って、仙道を睨む。
 今度は絶対に、はぐらかせないぞ、と内心で決意を固めた。そうそういつも、仙道の口車にのせられるのは、癪に障るではないか。
「……何でそんなに知りたがるわけ?」
「お前、昼間人が言った事、聞いてたのか?女子がいつもいつも、訊いてくるからだって、言っただろ」
「でもさ、そんなの知らないで通せば済むことだろ。理由にならないよ」
「そ、それはそうだけど……」
 思わぬ仙道の反論に、越野は思わずそう言い淀む。
「………俺が、気になるからじゃ理由になんないのかよ」
「じゃあ、女の子達が知りたいっていうのは、口実なんだ?」
「別にそういうわけじゃねえけどっ」
「じゃあ、どういうわけ?」
「……もう、いいよっ。言いたくないなら、別に無理する事ねえんだし、言う言わないはお前の自由だもんなっ。悪かったよ、しつこく訊いて」
「………怒った?」
「別に、怒ってなんかねえよ」
 ただ、悲しいだけだ。
 そう心中で呟いて、その後、アレ?と疑問符を浮かべる。
 何で、悲しいなんて思ったんだろう、と。
 別に、悲しむような内容の話などではないのに、何故、そんな風に思ったのか。
「………越野?」
「え?」
「どうしたんだ?急に黙り込んで。そんなに、怒っちゃた?」
「え、いや、そんなんじゃないけど……ごめん、何でもない」
「越野?」
「何でもないってば!」
 越野はそう声を粗げて、立ち上がる。
 いつだって、そうだ。怒るのは自分だけで、仙道はいつだって、余裕の笑みで、それを躱す。
 本心を、見せようとしない。
 そう思った瞬間、『ああ、そうか』と、納得がいった。何故、悲しいと思ったのか、その理由。
 仙道は、いつだって本心を見せてくれない。これだけ近くにいて、他の誰よりも近くにいるのに、自分は仙道の事を何も知らない。いつだって、彼は自分をごまかすのだ。
「………帰る」
「越野?」
「もう帰るから、俺。コーヒー、サンキュ。また、明日な。朝練、サボるなよ」
「ちょ、越野?」
 いきなりの越野の言動に、仙道は戸惑ったようにそう言って、越野の腕を掴んだ。
「どうしたんだよ、急に」
「別に。最初から本借りたら帰るって言ってただろ」
「それはそうだけど」
「だったら別に何も問題ねえだろ。手、離せよ」
「……嫌だ」
 仙道はそう言って、腕を掴む手に力を込めた。
 こんな、訳のわからないまま、話を終わらせたくはない。
 越野に怒鳴られるのなんて、慣れているけれど。でも、その理由も分からないまま、話を打ち切らせるわけにはいかない。
「嫌だじゃねえだろ。俺は、帰って小テストの勉強すんだよ。それとも、何か?点が悪かったら、お前が責任とってくれるのかよ」
「それはちょっと無理だけど、でも嫌だ」
「あのなあ……」
 越野はそう言って、溜め息をつく。
「頼むから、離せよ。じゃないと……」
 泣きそうだ、と心中で呟いた。
 自分が、情けなくて。
 仙道は、俯いてしまった越野を困ったように見る。
「………いるよ」
「え?」
 突然言われた言葉に、越野はそう声をあげ、仙道を見る。
「………好きな相手?」
「そう。俺の、片思い」
「嘘、お前が?」
「うん。多分、相手は全然、気がついてないと思うよ」
 仙道はそう言って、笑ってみせる。
 気がついてたら、今ここにいないだろ?越野は。
 そう内心で呟いた。
「……誰?俺の知ってる奴?」
「うん、そうだね」
「えーっ誰だよ?!」
 声を上げた越野に、仙道は思わず吹き出してしまう。いつもなら仙道のその態度に怒りだす越野だが、今はそれどころではないらしい。
「俺の知ってる奴……?えー?」
 そう呟き考え込む越野は、既に帰ろうとしていた事など、失念していた。
 誰だろう。
 頭の中は、それだけだ。
「全く……ホント、可愛いよな」
「え?何?」
「ん?別に、何でもないよ、独り言」
 仙道はそう言って、そして。
「うわっ!」
 いきなり掴まれていた腕を引かれ、越野はそう声を上げる。そしてそのまま、仙道の方へと倒れ込む。
「何すんだよ、てめえっ」
「まだ、分からない?」
「……何がだよ」
「………分かってないか」
「だから何がだよっ!言いたい事があるならはっきり言いやがれっ」
 そう怒鳴る越野の体を、仙道はそのまま抱き締める。
 なっ、何だ何だ何だっ?!
 突然の事に越野は内心でそう叫ぶ。
 一体、何なんだっ、と。
「越野さあ、鈍感すぎるよ」
「何だとーっ?!」
「少しは気がついてくれてもいいのにさ」
「だから何をだってんだ!」
 仙道の言葉に、越野はそう怒鳴り、仙道の胸を押し返す。それから、精一杯仙道を睨みつけた。
 ……それが、間違いだった、と後に越野は悔やむのだが。
「?!」
 次の仙道の行動に、越野は驚きで声も出ず、ただただ目を見張るだけだった。
「な、ななな、何すんだよっ」
 我に返った越野は、そう怒鳴って仙道の腕を振りほどき、片手で口を隠す。
「何って……キス」
「そんな事ぐらい分かってる!」
 そう怒鳴ってから、初めて仙道が自分にした事を認識し、今更ながらに越野は顔を真っ赤に染める。
 そう、自分がいまされた事は。
 紛れもなく、世に言う、キスなるものなのだ。
「……あのさあ、越野」
「何だよっ」
「これでもまだ、分からない?」
 俺が誰を好きなのか。
「かっ、帰る!」
「え?ちょ、越野っ」
 突然の言葉、そして行動に、仙道は慌てて手を伸ばすが、その前で無情にも、派手な音を立てて扉は閉まる。
「……まあ、いいか」
 殴られる事を覚悟していたのだが、それがなかった事に仙道は内心喜んでいた。
脈あり、かな。これは。
 そう考えながら、仙道は楽しそうに目を細めるのだった。


 とりあえず、仙道の一歩リード、確定(笑)



                               Love Game 1 END
                                   03/05/15 UP


■てな事で。
  非常に姑息な手段での作品UP第2弾(爆)
  以前発行したコピー本より転用。
  でももう在庫もないので、丁度いいかと(笑)
■ようやく『LoveGame』本編UPにゴザイマス。
  この『LoveGame1』は一応発行したんですが、
  続編の発行に至らずに、実質仙越でのオフライン活動が止まって、はや云年(爆)
  元原あるんだから、もっと早くにUP出来たろうものを……。
  何やってたんでしょうかね一体ワタクシ……;;
  んでもって。以降はまだ文章にしていないので、ここからが大変なのでしたー……;;
  気長ーにお待ち頂けるとーとか思われます。スミマセンー;;