氷の微笑

 聖域にもクリスマスが近づいてきた。
 カミュは何故だかむっつりと考え込むようになった。こんなカミュは今まで見たことがなかったのでミロは酷く心配した。
 ある日のこと、突如カミュはミロに、
「ミロ、シベリアでクリスマスを過ごさないか?」
と言い出した。ミロは驚いて、でも嬉しそうに承諾した。今まで何度カミュの思い出深いシベリアに行ってみたいとミロが頼んでもカミュはうんと言わなかった。それをカミュが自分から行こうと言い出すなんて一体どういう風の吹き回しだろう?でもミロは嬉しかった。そして早速クリスマスプレゼントを買いに行った。
 カミュは何を贈ったら喜んでくれるだろう?でもこの日は救い主イエス・キリストの生誕を記念してお祝いする日だからあまり大袈裟にすることはないような気がする。
 ミロは小さな新約聖書を買って帰った。勿論二人ともクリスチャンではないのだが、クリスマスの起源を書いた書物である。いい記念になるのではないか。ミロはそう考えた。

 クリスマス当日、二人は雪が舞うシベリアに着いた。飛行機の難航など色々ヒヤヒヤすることはあったが、とりあえず無事到着した。
 カミュはミロの手を引いて氷の上を歩いていった。ミロの長い金髪が白いコートのフードから流れるように縮れ出て風に舞う。その姿は雪の女王のようだった。ミロは微かに頬を染め、白い息をこぼしながらカミュに細い手を差し伸べてやっとついてくる。カミュはその消えそうな微笑みを見てちょっと不安そうに顔を背けた。
 二人は取り分け大きな平たい氷の上に着いた。カミュはミロの手を離すと見ろと向かい合った。
 カミュの目が鋭く光った。
「カミュ…?」
 カミュの手からどんどん凍気が吹き出てくる。ミロは瞬時に悟った。
――殺される…。
 しかしカミュの小宇宙には殺気も悲しみもなくただ深い愛が漲っていた。
 いいよ…。カミュに殺されるなら本望だ…。
 ミロの瞳からすーっと透き通った涙が流れ落ちた。ミロは静かに瞳を閉じた。
 不意にミロはカミュの大きな腕に抱き締められるのを感じた。ミロが目を開ける。
「やっぱりできない…!」
 カミュが搾り出すように叫ぶ。カミュはミロのグリーンの瞳を見つめて、
「お前を失うのが怖くてお前を一生閉じ込めておこうと思った…でも、でもお前にも生きる権利があるのに…!」
 ミロは優しく、
「誰も俺たちを離れさせはしない…聖書のどこかに書いてあったと思うが"私は世の終わりまであなたと共にいる"。キリストの言葉だ。俺はお前の神にはなれないがずっと一緒にいたい…いさせてほしい…」
「ミロ…!」
 カミュはぎゅっとミロを抱き締めた。華奢な身体が壊れるくらい強くしっかりと。
 カミュはミロの身体をそっと離すと、微笑んで、
「ミロ、渡したいものがある。左手出して」
 ミロが左手を出すとカミュはそっとその薬指に触れた。ミロの薬指には美しい氷のリングが現れた。ミロのその手をカミュは優しく取る。ミロはプレゼントの新約聖書を取り出した。カミュが二人の手をその上に置いた。
 しかしリングはすぐに溶けてしまった。カミュは苦笑して、
「やっぱりな」
 そしてポケットから小さな箱を取り出した。そこから現れたのは氷そっくりのリング――。
「シャンゼリゼ通りで買ったんだ」
 ああ、あの時の。ミロは思い出してクスッと笑った。
 カミュはゆっくりとリングをミロの指にはめた。
 空にはオーロラのカーテンが雄大に、でも慎ましやかな光を放っていた。二人はそれをじっと眺めた。カミュはそっとミロの顔に手をやり、そのきれいな唇に口付けした。
――永遠にこの一瞬を忘れない。二人の新しい旅立ち――
 静かにオーロラは舞い続ける。このまま時間が止まってしまいそうなほ程、美しく神聖な夜だった。




■ギャ〜結婚式ですよみなさん!!!!!!
 ほぼ1年間を書いて頂いた形なのですが、最後がX’masでその上結婚式!!!!!
 永遠の愛ですよ!!!!!
 ウエディングドレス着せたいですよねミロさまに!!!!(話がズレてます)
■いやもう何も言うまい。語るまい。
 読んでいただければそれが全てな気が致します。
■いやーでも本当に強請り倒して気がつけば二人の1年間を覗き見させて頂いたわけで。
 強請った甲斐があったというものです……vv
 ゆみざき様!我侭にお応え頂き本当にありがとうございました!
 ふふふ次は何を強請るべきか……(反省は何処に行った!)