冬模様
ミロはカミュの部屋の前に来ると暫くためらっていたが、やっと意を決したようにドアを控え目にノックした。
「入れよ」
部屋の中からカミュの声がした。ミロはそのいつもの声に励まされてそろそろとドアから顔を覗かせた。カミュは机の前に座っていて、笑顔を見せながら、
「やっぱりお前か。ノックしなくてもいいって言ってるのに。几帳面だな」
「……」
ミロは顔を赤らめ、カミュの側に歩み寄った。
「風邪はもういいのか?」
「ああ」
カミュの問いにミロは小さく頷いた。しかしミロの様子が変である。いつになくそわそわしているし、顔をずっと赤らめている。カミュは心配そうに、
「まだ具合悪いのか?」
「いや。大丈夫だ」
そしてミロは顔を背けて、
「これを…」
と、小さな包みをカミュに差し出した。ミロの趣味らしく、綺麗な、でも嫌味ない包装紙で包んである。ミロは付け加えた。
「この間のお礼に」
カミュは笑って、
「風邪ひきの時のか?まめな奴」
ミロは益々顔を赤くしたが、フイと背を向け、
「それじゃ」
と出て行こうとした。
「待てよ」
「――あっつ」
髪の毛をを引っ張られミロは振り返った。
「何だ?もう」
「開けてもいいだろ?」
ミロは不承不承頷いた。カミュが包みを開くと白い箱が出てきて、その中に小さなチョコレートが幾つか並んでいた。カミュはチョコレートをまじまじ見つめ、
「へえー。嫌いじゃないが」
ミロはいたたまれなくなって、また出て行こうとした。
「いたっ!」
再びカミュに髪を掴まれミロは思わず顔をしかめた。振り返ると、
「もう!いちいち髪引っ張るな」
しかしカミュの真剣な眼差しにミロは思わずドキッとした。カミュはミロの金髪をいじりながらも目だけはミロの顔をじっと見つめている。そしてカミュは立ち上がりミロの肩に手を回し、ミロの顔に自分の顔を近づけた。
「カ、カミュ…?」
慌てるミロにカミュはそっと口を寄せ、アリガトウ、と囁いた。そしてミロの肩を離した。ミロは小さくため息をついて、
「びっくりさせるな」
カミュは椅子に戻ると、
「びっくりしたのはこっちだ。今日が2月14日だと知っていればな」
意味深なカミュの言葉にミロはまた赤くなったが、何とか軽く微笑むと、
「じゃ、今度こそ」
と言って静かに部屋を出て行った。
カミュは頬杖を付いて、ふふと笑いを浮かべてチョコレートを眺めると、
「可愛い奴」
と呟いて、チョコレートを一つ口に放り込んだ。
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