パリ千夜一夜

 ここの紅葉は美しい。日本のそれとはまた違った趣があり清々しい空気を含んでいる。――フランスの紅葉。誰よりもまずミロと見たかった。そして願い叶ってカミュはミロと二人でこのパリの郊外にやって来たのである。
 二人が宿をとったのは素朴な小さなホテル。ミロが好きそうな優しい色合いの家具やカーテン、そして近くに美しい紅葉が見渡せる公園付であった。
 この旅行を喜んでいるのはミロも同じである。何と言ってもカミュと一緒なのだから。美しい景色に澄み渡った秋の空。ミロの心はこの絵のようなパリを存分に味わう準備ができていた。勿論カミュと一緒にだ。
 この日は折りしもハロウィンだった。静かなこのホテルでもささやかな準備がなされた。ミロはキッチンを借りてカミュの好みに合うようなお菓子を焼いた。尤もカミュは甘党ではないので、ちゃんと料理も用意して空港で買ったワインも冷やしておいた。
 やっと準備完了だ。――突如、前触れもなくキッチンのドアが開いた。カミュだろうと思ってドアの方を見たミロは思わずぎょっとした。薄暗い廊下から1体のスケルトン(骸骨)がニュッと顔を覗かせたのである。
 ミロの目の前がぼうっとかすんで、ミロは崩れるようにその場に倒れた。

 温かい腕の中だ。ミロは半分夢心地で目を開いた。辺りは涼しい風が吹き抜けている。視界がはっきりして目の前に心配そうなカミュの顔があった。
「大丈夫か?」
「カ…ミュ…」
 カミュはちょっとすまなさそうに、
「ハロウィンではお化けがお菓子を取りにくるんだ。ちょっとミロを驚かせてやろうと思ったんだが…」
 何だ…と、ミロは安心した。それにしても気絶してしまった自分が恥ずかしい。カミュはミロの肩を抱きながらミロの細面の顔をじっと見つめた。
「気分はどうだ?ベッドに運ぼうとも思ったんだが」
「大丈夫。それにここは風があっていいな」
 そう言ってミロは辺りをうっとりと眺めた。その姿をカミュはもう一度見つめた。
 見事な金髪が木々の紅葉と溶け合って風に流れている。白い肌がほんのりとオレンジ色に染まってまるで自分の知らない美しい人を見ているような不思議な気持ちになる。彼を抱き締めたくなる自分の手をぐっと身体に押し付ける。
「料理、並べてくれたのか?」
 ミロの言葉にカミュは我に返る。いつもと変わらない声。カミュは照れを隠して、
「ホテルのマダムに手伝ってもらってな。食べようか」
「ああ」
 二人は瞬く間に過ぎる時間を思う存分満喫した。

「カミュ…おかしい…。寒くてだるい…」
 夜の帳が降り始めたころミロが不意に弱々しい声を出した。
「ミロ?」
 日が落ちてきたせいかミロの顔は益々白くなり、カミュは急いでミロの手を握った。ひどく熱い。
「カ…ミュ…」
 そうミロが言った途端ミロの身体がゆっくりと傾いて服がぱさりと落ちてミロの身体がなくなってしまった。かわりに服の中から姿を現わしたのは美しい金色の緑の瞳をした子猫だった。カミュは唖然とした。
「ミロ!?」
 ミロ猫は訳が分からないようににゃあと鳴く。自分の身体に何が起こったか把握できないでいるらしい。それはカミュとて同じであったけどとりあえずカミュはそっとミロ猫を抱き上げた。ミロ猫はカミュの顔がこんなに近くにあるので混乱してしきりににゃあにゃあと鳴く。
「ミロ、大丈夫だから」
 カミュはミロ猫をなだめて自分の膝の上に乗せた。そしてそっと優しく撫でてやる。ミロ猫は嬉しそうに丸くなった。いくらミロだからと言って猫にワインをという訳にもいかずカミュはミロ猫にミルクをやった。ミロ猫は美味しそうに飲む。
「うまいか?」
 ミロ猫はにゃあと答える。まさかミロとこんな形のやり取りをするとは思ってもみなかったがまあカミュは幸せだった。
 やがてミロ猫はうとうと眠り始めた。カミュは可愛いのと笑いたいのとで吹出しそうだった。性格までも猫になるんだな、お前って。本当ならヒゲを引っ張ったりとイタズラをしてやりたいところだがあまりにミロ猫が気持ちよさそうに眠っているので可愛そうになってやめた。カミュはカバンからマフラーを取り出し、ミロ猫にそっとかけてやった。そしてそのままミロの部屋のベッドに入れてやった。

 次の朝、カミュとミロは微笑みを交わした。あれは夢ではなかった。現に人間の姿のミロしかいないのだけど、マフラーはベッドにちゃんとあったのだ。ハロウィンが二人にかけた魔法だったのか、それとも紅葉の妖精の悪戯か?どちらにしろ忘れられない夜だった。

――さて、今日はシャンゼリゼ通りを二人で歩く予定だ。旅はまだ始まったばかりである――。









■はい、またしても(笑)ゆみざき様より奪ってしまいました、カミュミロ話!!!!!
  ………可愛いですよねえミロ様!!!!!!
  (気ィ失う辺りに思わず『お姫(ひい)様だ!!!!』と叫んだワタクシ…)
  本当は、きちんとハロウィンに間に合う時期に頂いておったのですが、
  表日記に書き連ねました、10月末の激謎な体調不良の為に、こんな時期になってしまいました。
  うううううう不覚!!!!!!
■今回、お題がハロウィンだったのは、直前に頂いたゆみざき様からのTELで、
  私が喚いたからです(笑)
  以前に、紅葉狩りを喚いていたのですが、それと合わさりましたvv
  『ヨーロッパ辺りで、紅葉楽しんでいる二人とか思ってたんですがー』の一言に、
  じゃあそれにハロウィンも加えて!とか無理を言ったのですねーワタクシが(笑)
  で、その時に気にしていたのが、ヨーロッパでハロウィンは行われているのか。
  ネットで調べてみたところ。
  発祥は確かにヨーロッパ(ってかケルトの行事らしいですね)なんですが、
  何かアメリカで盛んに行われているそうで。
  肝心のヨーロッパはどうかと言うと、アメリカからの逆輸入って形で、徐々に浸透しているとか。
  具体的な地域とかまでは調べきれなかたのですが、でもある事はあるらしい、です。
  ので、ゆみざき様、ヨーロッパOKですよー(私信かい)
■ミロ猫は……元ネタ提供はワタクシ、だそうで(爆)
  昔(このサイトにも載っけてます、例の私画のミロイラストと同じ)ペーパー上に、
  何の気なしに描いた、ミロ猫イラスト、だそうです。
  ………そういや描いたよ、そんなイラスト(笑)
  こっそりそのイラを載せようかと思ったのですが、諸事情で却下しました(笑)
  いやしかし、私はきっとこの話の為にあのイラを描いたのよ!偉いぞ当時の自分!(笑)
■素敵に可愛いお話をアリガトウゴザイマシタゆみざき様!