非日常的な週末               



「日向〜早く起きろよ。俺先に行くぜ?」
 毎日繰り返される朝の日常。
 日の出と共におはようの松山は朝を爽やかに迎え、着替えながらまだ布団と仲良くしてる俺を起こすのが日課となっていた。
 そして俺はその声にまだ覚醒し切らないまま生返事をし、着替え中の松山をボーッと見てる時間が至極気に入っていた。
 松山は俺が生返事をすると必要以上に俺を起こす事も無く着替えを済ますとさっさと部屋を出ていってしまう。
 その日もいつもと同じように松山の姿を眺めたいただけだったのに。
 松山の着替えが終わったら俺も着替えようと体を起こそうと思っていたのに。

「…日向?お前何か変…ってオイっ!お前すげぇ熱!」
 突然首筋にヒヤリとしたものがあてがわれて一瞬身を竦めてしまう。
「何の返事もねぇから変だと思ったら…」
「…熱?俺が?…何かダルイとは思ってたけど…」
「アホッ!こんなに熱あるのに気付かないのかよっ!」
 ヒヤリとして心地良かったそれは松山の手で。
 そして目の前には怒ったような心配したような顔の松山が慌てまくってるようで。
 俺といえば全く自覚症状無しでそれが松山の怒りを買っているのだろうか。
「あー大丈夫だろ…今日は監督居ねぇんだし、紅白戦でも…」
 するか?と起き上がろうとするとあっという間にベッドに押し戻された。
「バカだろお前っ!んな熱あるのに部活出来る訳ねぇだろっ!学校も行くなっ!今日は寝てろっ!!」
 ものすごい剣幕で怒鳴りつけてくる松山。
 何もそんなに怒るこた無いだろう…。
「良いかっ?今日は絶対起きちゃダメだからなっ!!」
 松山はそう言うと部屋を出て行ってしまった。
 ―――何だよ、怒鳴るだけ怒鳴って置いてけぼりかよ…。
 俺が熱ねぇ…自分で言うのもなんだが青天の霹靂だな、こりゃ。

 ぼぅっと天井を見つめてるとガチャッと勢い良くドアが開いたので首だけそちらの方を向けると洗面器片手に松山が入ってきた。
「部活行ったんじゃなかったのかよ。」
「あのなぁ…俺そんなに薄情に見えるか?部活は大事だけど、熱出してるヤツ放っておけねぇだろ?」
 松山らしい返答だが。
 カラカラと洗面器の中で氷のぶつかる音が聞こえる。
「……熱出したヤツが俺じゃなくても、か?」
「アホ。何言ってんだお前は。熱あるから余計な事考えんだよ!もう、寝た寝たっ!」
 固く絞ったタオルを額に乗せられるとその心地良さに改めて熱のある事を実感する。

「気分とか悪くねぇか?」
 上から覗き込むようにして松山の顔が近付いてくる。
 ―――カワイイじゃねぇか。こんな表情の松山が拝めるんならたまには病人も良いな。
「頭とか痛くねぇ?」
「大丈夫だ。寝てれば治る、と思う。」
 不思議と頭が痛いとか気分が悪いとか、そんな症状は無い。
「そっか。多分疲れたんだな。」
 ちょっとホッとしたような松山はベッド脇に椅子を持って来て座り込む。
「ま、今日は土曜で学校も半ドンだし、ゆっくり休めよ。先生には言っといてやるから。」
 土曜日と言えども文武両道がモットーの我校は公立と違って授業がある。
 寮生活だし、毎日学校に居るみたいなもんだが…。

「あ、もうこんな時間か。俺授業出てくるわ。気分とか悪くなったらインターホン使えよ。」
 管理人室に繋がってるインターホンは電話の呼び出しに使われていたが今は誰でも携帯電話を持ってるので使われるのは点呼の時くらいだ。
 何度もタオルを替えてくれてた松山は制服に着替えるとそう言って部屋を出ていった。

 一人取り残された部屋で。
 取り立ててする事も無く、再び眠りにつく。
 どれくらい眠ったのか、人の気配に目を覚ますとそこには松山の姿。
「悪ぃ、起こしたか?」
 新しい氷水を持って来てくれたのか、額の上のタオルを取って冷やし直してくれる。
「喉、乾いてねぇか?コレ、飲む?」
 そう言って差し出したのはペットボトルのポカリ。
「サンキュ。」
 確かに喉はカラカラに乾いていた。
 体を起こすと当たり前のように松山が手を貸してくれて、何だか嬉しくなって顔が綻んでしまう。
「何ニヤついてんだよ。熱が高すぎておかしくなったか?」
 発せられる言葉は相変わらずだが――。
 ポカリを飲みながらふ、と時計に目をやるとまだ11時前だ。
 ちょうど2時間目が終わったくらいか…
「休み時間か?」
「授業抜け出せるわけねぇだろ。さっきの休み時間も来てソレ置いていったんだけどまだ飲んでねぇみたいだったからすげぇぐっすり寝てたんだな。」
 もしかして休み時間の度に来てくれてたのか?
 そんな松山の行動が滅茶苦茶嬉しくて。
 その上極上の笑みを浮かべてベッドの端に腰掛けてる松山の顔を見てたら考えるより先に体が行動を起こしてしまった。
「ちょっ…ひゅう、が?」
 気付くとそのまま松山をベッドに押し倒していた。
 松山は思いも寄らなかった俺の行動に少しの間固まっていたが、すぐに抵抗をはじめた。
「も、何する…お前すげぇ力…ちょっと痛いってばっ―――んっ…」
 俺はと言えば力任せに松山を押し付け、唇を奪っていた。
 柔らかく心地良い感触にずっと口付けていたかったけど、ドンドンと胸を叩く松山の手に力が無くなってきたのを感じると唇を離した。
「……はぁっ…もうっ!お前病人なんだぞ!なんでそんなに元気なんだよっ…」
 少しばかり酸欠になったのか、大きく息を吸い込むと再び俺を押し退け様とする松山。
 潤んだ黒目勝ちの大きな瞳で睨みつけるが、そんな姿が俺を一層駆りたてると言う事に全然気付いてないんだろうな、コイツは。
「……なぁ、俺お前としたい。」
「はぁっ?お前何言って……んぁっ…」
 俗物的な言葉を吐いてズボンの中からカッターシャツを引っ張りあげ、裾から手を入れると直接松山の胸の突起を摘み上げる。
「ヤ、ダ…!も、授業始まっちまうってば…」
 俺の腕を掴んで押し戻そうとする力は必死だが、言葉尻はきつくない。
 それは快感からとかそういうものじゃなく多分、熱がある俺に対しての遠慮と言うか無意識に強く出れないのだろう。
 そこに付け入る俺は相当鬼畜かもしれない。
「今更行ってももう間に合わねぇよ。」
 シャツを力任せに引き千切るとボタンが弾け飛ぶがそんな事はお構いなしにさっきまで手で弄んでいた突起物に歯を立てる。
「んぁっ!」
 びくんっ、と白い肌を露にして跳ね上がる松山の肢体はひどく艶めかしくて。
 もう後戻り出来なくなってしまった俺は両腕を頭の上で押さえ付けながらベルトのバックルに手を掛けた。
 すると松山は身を捩り、足を振り上げて抵抗を始めたのでその足を押さえ付けようと態勢を変えたその時―――
「――!」
「あ…悪ぃ……」
 ―――松山の右足の踵が俺のミゾオチを直撃した。
 仮にもサッカー選手である松山の右足だ。
 偶然だとは言え、その衝撃に思わず腹を押さえて蹲ってしまう。
 ……情けねぇ。
「松山ぁ〜〜〜」
 じんわりと目頭が熱くなる。
「だから悪いって……でもっ、お前が悪いんだぞっ!自業自得だっ!!」
 慌ててベッドから飛び降りて乱れた服を急いで直す松山。
「うわっ、なんだよコレ…ボタン1個も無ぇじゃねぇかよっ!」
 ……そうでした。俺がすっかり引き千切ってしまった松山のボタン。
 絶対怒り心頭で食って掛かってくると身構えた俺だったが、ブツブツ言いながらもジャージに着替えて大きな怒りを落とすわけでもなく部屋を出て行った松山にすっかり気が抜けてしまった。

 その後も何事も無かったかのように――イヤ、警戒はしてるようで一定範囲から近付いてこようとはしないが――甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれる松山。
 部活中も何度も部屋に来ては様子を見に来た。
 夜には食堂のオバちゃんに特別作ってもらったと言うお粥を持って来てくれたり。
「食わせてくれ。」
 ここぞとばかりに松山に甘えてみる俺。
 別に一人でも食えるんだけどな。
 松山が居ない時間は殆ど寝てたからすっかり元気なんだし。
 でもこんな松山、こんな時しか見れないし、まだしばらく松山に看病されていたい気分だから。
「……ひとりで食え。」
 見るからに警戒心剥き出しの態度で。
「何もしねぇよ。さっきは悪かったって。俺も熱に浮かされてよぉ…」
 なんてかなり見苦しい言い訳だが。
「……しょうがねぇな。」
 松山は椅子に腰掛けると土鍋を盆ごと膝の上に乗せて一さじ掬い、息を吹きかけて冷ましてくれる。
「……何見てんだよ。ホラ、口開けろよ。」
 思わず松山の行動に見入ってしまっていた俺を怪訝そうに睨みながらもちゃんと食べさせてくれるようで。
 ―――もしかして俺、すげえ幸せモン?
「もうっ、何ニヤついてんだか。変な事考えてんだったら自分で食えよ。」
 知らず顔が綻んでいた様だ。
 それでもお粥を運ぶ手はそのままで、俺は雛のように口を開けて運ばれてくる飯をすっかり頂いた。

「しかしまぁ、こんな姿、猛虎の名が泣くな。ホラ、飯付いてる。」
 盆をベッド脇の台に置くとくすくす笑いながら口元に手を伸ばしてくる。
 ―――やっぱり我慢は体に良くねぇよな。
 延ばされた手首を掴んで引っ張るとすっかり警戒する事を忘れていた松山は勢い良く俺の胸に倒れ込んできた。
「ちょっ…日向っ…お前何もしないって……っぁ…」
 首筋を強く吸い上げると抵抗の言葉が快感を拾った声に変わった。
 そのまま態勢を入れ替えて松山を組み敷く。
 しっかり押さえ込んで耳朶を軽く噛むと微かな震えが伝わってくる。
 本人は必死で我慢してるようだが僅かな刺激も拾い上げてしまうほど松山の身体は敏感だった。
 もっと松山を快楽に溺れさせるべく直接肌に触れようとしたその時―――

「日向さ〜んっ!具合どうですかぁ〜〜っ?」
 勢い良くドアを開けて現れたのは他でもない反町……と後ろに若島津。
 そのまま固まってしまった。
 ……ノックぐらいしろ。
「あ、すいません。お邪魔でした?」
 別に大した事じゃないだろう、とでも言いた気な態度の若島津。
 ニヤニヤしやがって…。
 知ってて部屋に入ってきたんじゃないだろうな。
 突然の出来事に驚いたものの、そのチャンスを松山が見逃す筈は無く俺が少し力を抜いた隙に思いっきり突き飛ばしてきやがった。
「―――痛っ!何しやがるっ!」
 ベッドの下に転がり落ちた俺を跨いで若島津の後ろに逃げ込む松山。
 若島津が何か耳打ちすると茹蛸のように真っ赤になって部屋を飛び出して行ってしまった。

「ったく、何やってんですか。あんた、熱あるんじゃなかったんですか?」
 若島津は一応病人である俺を気遣ってくれてるらしく、ベッド下に座り込んだままの俺に手を貸してくれた。
「熱があってもどうにもならない時があるんだよ。」
「ま、分からないでもないですけどね。」
 そう言って反町の方を見る。
 反町は若島津の意図を把握したのか少し顔を赤らめたが、松山みたいに露骨に避けるわけでもなく、
「それも愛されてる証拠だからね〜」
 なんていけしゃあしゃあと言い放つ。
「でもさ、日向さんも愛されてるよ〜松山、滅茶苦茶心配してたよ?学校行ってる時も部活してる時も日向さんが気になって仕方が無かったみたいだもん。」
 羨ましい、と言う反町。
「で、松山の看病の甲斐あってもう熱は下がってんでしょ?」
「―――お蔭様で。」
「明日、もう1日熱がある振りしといた方が良いですよ。」
 そう言って若島津は反町を連れて部屋を出ていった。

 次の日、若島津の言った言葉の意味がよく分かった。
 俺がすっかり元気になったのを確認すると、手加減無しで手や足が飛んできた。
「俺のシャツ、弁償しろよっ!それにコレっ!絶対にこんなん付けるなって言ってるのに付けやがって!しかもこんなトコにっ!!」
 指差した首筋にはしっかり俺が付けたキスマーク。
「反町達にはあんなトコ見られるし、若島津にもコレ、指摘されるしっ!!」
 顔を真っ赤にして怒る松山。
「そんなに怒んなくても…」
「うるせぇっ!!熱があると思って心配してたらヤる事しか考えてねぇしっ!しばらくお前とはやんねぇからなっ!!」
 飛んできたのはサッカー雑誌。
 物は大切に扱えよな。
 昨日はあんなに幸せ気分だったのに1日で地獄へ突き落とされた気分だ。
 機嫌を損ねた松山は厄介だからなぁ。
 松山の機嫌が直るまで最低1週間は禁欲生活になりそうだ……。







■ぐっはーッ!!!!!!
  明日香さん明日香さん、本当に素敵お話をありがとうございますッ!!!!!
  松山かわいいようーッ(>_<) 私でもきっと襲ってるよな………。
■このお話は、説明にも書きましたように、『病気ネタ松小次』を交換条件で、お互いに書きませう!
  という名目の元に私が明日香さんから奪った物です(笑)
  『病気ネタいいですよねー』から始まり、『でも自分の書く話じゃ萌えないんですよねー』に至り、
  『書いて下さいー』とお互いに強請り、私が無謀にも『交換でお話頂けるならー』と。
  ただ単に私が明日香さんの素敵お話を頂きたかっただけ、ってな企画です(笑)
  そしたらばこんな素敵なお話を頂きまして!
  『私一人だけで愛でるのは勿体なーいッ!!!!!』と言うことで、許可を頂きここにUPです!
■私の希望は『松山に甲斐甲斐しく看病される日向さん』でしたー。
  (逆に明日香さんのご希望は『日向さんに看病される松山クン』でした)
  そしたらば、この素敵話!!!!!!
  おまけに私が『若反』なので、こっそり若反入ってるんですよ奥さん!!!!!(誰に向かって言ってるんだ)
  も〜読んでる端からキャーキャー言ってましたPC前で!(笑)
  しかし日向さん、松山クンの機嫌が直るまで、本当に禁欲生活出来たのでしょうか(笑)
  ワタクシは出来てない方に1万点(笑)
■本当に素敵話をありがとうございました明日香さんッ!!!!!!