「鬱陶しいぞっ、さっきからっ」 「そうですか?」 「そうですか? じゃないだろーがっ、貴様はっ」 飛影はそう言って、キッと蔵馬を睨みつけた。 「久しぶりですからね」 睨まれた事を意に介す事もなくそう言った蔵馬は、小さく笑みを浮かべ。部屋に入ってきた飛影を捕らえた腕に力を込める。 ひんやりとした夜の空気が腕に伝わって来る。 「貴方はいつもそうでしょう?突然来たと思ったら、同じように突然居なくなる。少しはこういう役得がないとやっていけませんよ」 「それは貴様の勝手な都合だろうが」 「いけませんか?」 「………勝手に言ってろ。俺はもう知らん」 その返事に、蔵馬はクスクスと笑うだけで、そのまま飛影を抱き締めた。 「ねえ、飛影」 「………何だ」 「ここに来ない時はいつも何処に居るんですか?」 「…………別に何処でもいいだろう。貴様には関係のない事だ」 「何を言ってるんですか、大有りですよ」 蔵馬のその言葉に、飛影は呆れた様に蔵馬を見上げた。 「何を威張ってるんだ……」 「別に威張ってはいませんよ。本当の事を言っているだけです」 「どこがだっ」 「貴方は、俺が貴方の心配をしないとでも思っているんですか? もしかして」 「する必要が何処にある」 「ありますよ十分。貴方の事を好きだというだけで十分な理由です。違いますか?」 そう平然と言いのけられて飛影は反論に詰まり、憮然とした表情で蔵馬から顔をそらした。 「他にも理由は色々ありますけどね。それも言いましょうか?」 「いらんっ」 飛影はすぐさまそう言って、蔵馬の意見を却下する。 「そうですか?」 「そうだっ」 放っておくと聞いている方が恥ずかしさで憤死しそうな事を平然と言ってのける相手には、それぐらいの勢いで否定しておかないと策がない、と流石の飛影も身をもって実感していたから。間髪入れずにそう返し、それから急に居心地が悪くなったような気がして、蔵馬の腕の中から抜け出してみようと試みる。 それに気が付いたけれど、蔵馬は敢えて抱きしめる腕を強める事はしなかった。 「じゃあ言いませんけどね」 蔵馬はそう言った後、でも、と付け加える。 「でも出来る事なら、飛影。来る時にもとは言いませんから、せめて居なくなる時くらいは一言何か言ってからにして欲しいんですけどね、俺は」 「…知らん」 「冷たいなあ………」 そう言いながらも、返ってくる答えは予測済みだったのか、蔵馬は笑みを浮かべるだけだった。 「でも、そうですね。こうして来てくれているだけで、良しとしましょうか」 蔵馬は笑みを絶やさないまま、そう呟いた。 その呟きには気づかぬふりをして。飛影はそのまま蔵馬の腕の中で目を閉じた。 本当は解ってる。常に彼が自分の事を気にかけていてくれる事も、だからと言って自分を束縛しようとは決してしない事も。その証拠に、逃れようとする自分を、彼は決して留めようとはしないのだ……さっきの、様に。 随分と甘やかされている。そして、きっと自分も、随分と甘えている。そう思うと、何だか悔しくなってくる。 束縛が嫌いで、でも本当は、きっと捕まえていて欲しい。矛盾だらけで嫌になる。 「飛影?」 暫くの沈黙の後でのその呼び声にも、聞こえないふり。 「………飛影?もしかして寝ちゃったんですか?」 その言葉に更に黙っていると、蔵馬は軽い溜め息をつく。 「俺は貴方の枕ですか?………いいですけどね、別に」 諦めにも似た心境で、そう呟いて。 蔵馬は軽々と飛影の身体を抱き上げると寝室へと入り、そのままそっとベッドに降ろす。 「………飛影?」 ベッドの端に腰を掛け、もう一度そう声を掛けてみる。 再び、聞こえないふり。 絶対に、言ってなんてやらないけれど。こうして名前を呼ばれるのが好きだ、なんて。本人には、絶対。言ってやらない。 眠ったふりも。そう思っている事も。聡い彼には、本当はバレてしまっているのだとしても。 「………さて、と」 暫く飛影の寝顔を眺めていた蔵馬はそう言って立ち上がる。 「起きたらきっと、おなかを空かしているでしょうからね」 そう呟いて寝室を出ると、蔵馬はキッチンに立つ。 蔵馬が出て行った後、飛影はゆっくりと閉じていた瞳を開いた。 トントンと、蔵馬が包丁をふるう音が部屋の外から聞こえた。仄かに入り込む、隣室の明かり。 何故だか不意に可笑しくなって。クスクスと僅かな笑みを浮かべると、再び目を閉じてベッドの中に潜り込む。 そして。 部屋の外から聞こえてくる物音を子守歌代わりに、いつしか本当に眠りの中に誘われていくのだった。 END 03/01/27 UP |
■という事で。幽白駄文第一弾(笑)
一体何年前に書いて発行したのか甚だ不明な、
私的にはとっても甘々な、蔵飛話の改稿版なんて、
そんな大層な物かい?!話です(笑)
■なんつうか。ちょっと言い訳しようにも言い訳のしようのない話な気がします。
何を考えて書いていたのでしょうワタクシ。
あんまり昔過ぎると振り返る事も出来ません(笑)
コピー本にした時の元原も残ってないので、
ベースが何時頃書いた物なのかトコトン判りません……。
今よりももっともっと未熟な時期に未熟なヤツが書いた物、と。
温かい目で見てやってくださると、とっても喜びます。…甘ったれるな!