ここは、一体、どこなのでしょうか?
 翡翠は呆然として薄暗い廊下を眺めた。

 じっとりと湿った空気、「何か」が蠢いている気配。
「ま・・・た・・・地下街・・・?」
 ずっと以前に、「移界玉」によって地下街へと飛ばされてしまったことがあったが、周囲の状況がその時と酷似している。おそらくは深いのであろう地階、妖しげな「何か」の遠吠え。違うことと言えば、------
「な、何であんたがこんなトコにいるんだよ?!」
 キャット・テール解答団のメンバーの一人、ナッシュが突然の治安『判事』の出現に泡を食ったような声で叫ぶ。慌てて宝飾品を隠そうとする姿に殆ど興味を示さず、翡翠は辺りを見回しながら言った。
「来ようと思って来たわけじゃない。それより、ここは何階か教えてくれないか」
「え、地下三十八階」
 しっ、バカ!などと仲間がナッシュの口を塞ごうとしている中で、翡翠はがっくりと肩を落とした。
「また地下街・・・」
「何だよ、来ようと思ったからココに居るんだろ!」
「違う!無理矢理連れてこられたんだっ」
「何だって良い、ココを知られたからにはあんたをそのまま帰すわけには」
「私は君たちが『特級』に指定されない限り、どこで何をしようが全く興味なんか」
「なあ」
 険悪になりかけた空気を破ったのは、孔雀の一言だった。
「どこにあんだよ、山盛りのカニ」
「・・・あるわけないだろ!」
「だって説明書に書いてあったから使ったのに!」
「あんな妖しい移界玉を信用する方がどうかしてるだろう?!」
「俺を騙したのか?!」
「僕の移界玉じゃない!」
「お前の机にあったじゃんか!」
「押収品だったんだ!君が勝手に使ったんだろ?!」
 子供のような喧嘩を呆気にとられて眺めていたリプトが、溜息を吐いて二人の間に割って入った。
「判った判った。・・・でも、あんたが俺たちのことを『警察庁』に喋らないって保証はないだろう」
 お尋ね者のキャット・テール怪盗団にしてみればいくら翡翠が「興味がない」と言ったところで、それを鵜呑みに出来るはずがない。話して判らない相手ではないだけ前回よりはまだマシだが、だからといって手放しで安心するわけにもいかない。翡翠は溜息を吐いて、カニカニ騒いでいる孔雀を無視した。
「どうすれば信じてくれる?」
「あんたならどうだ?俺たちが盗まない、って念書を書いたとして、それを信じるか?」
「信じる信じない以前に、君たちが盗もうが返そうが元々興味なんか」
 堂々巡りだ。途中で翡翠は言葉を切った。多勢に無勢、孔雀は恐らく殺されそうにならない限り、手出ししようとはしないだろうし、もう少し暇な時なら半日やそこらなら今居る場所が特定できなくなるような所へ連れていかれるまで、彼らに付き合っても構わないのだが・・・片づけなければならない書類が山を成して待ち受けている今の状況では、一分一秒でさえもが惜しい。正直、一回くらいなら犯行を見逃してやってくれと嘆願書を『警察庁』へ出してやっても構わないとまで思える位だ。
「・・・私は早く帰りたいんだ。連れ回されたり売り飛ばされたりしているヒマはない」
「バカにするな、人を売るルートまでは持っちゃいねえよっ」
「じゃあどうしろって言うんだ!賽を振って勝負しろとでも言うのか!」
 いい加減イライラがたまってきた時、ぽんと肩を叩かれた。
「お前、忘れてないか?」
 孔雀が意味ありげに笑っている。翡翠は眉を寄せた。
「何を?」
「とにかく、今すぐ帰れたらいいんだろ?」
「そうだけど・・・」
「俺がいるじゃん?」
 晴れ晴れと笑う孔雀と、『冥王』の発言に顔色を失うナッシュたちと。その中で、翡翠が地を這うような低い声で言った。
「・・・見返りは?」
「マツバガニ喰いたい」

 その瞬間繰り広げられたのは、ナッシュたちの想像をの域を超えている、非常に恐ろしい光景だった。
 「『冥王』の頭を、治安『判事』がグーで殴る」瞬間など、普通の人間ならばお目にかかることなど出来ないだろう。
「痛えな!」
「こんなことになったのは一体誰のせいだと思っているんだ!」
「ゴンっていったぞ、ゴンって!いしゃりょー寄越せ!」
「もう一回殴って欲しいなら殴ってあげるよ!」
 治安『判事』が咄嗟に握ったものは、鞘に収まった長剣だった。その持ち主は、クト。
「うわあ、それ、俺の!」
「うるさいっ、ちょっと借りたくらいで文句言うな!」
「これで殴られたらお前にもいしゃりょー請求してやるからな!」
「やめてくれー、俺の剣で揉め事を起こさないでくれよー!」
「じゃあカニ喰わせろ!」
「何で俺が?!」
「えーい、放せ!」
「ぎゃー!」
 跳ね飛ばされたクトが柱で頭をしたたか打ち付ける。辺りの荷物が散らばる、ひっくり返る、踏みつけられる、跳ね飛ばされる。
 留守を預かっていたリプトが悲鳴を上げた。
「頼むからお前ら、帰ってくれー!!」




 ・・・隠れ家に戻ったキャット・テールは何故か珍しく掃除をしている部下たちを見て、首を傾げた。いつも、リプトかキャット・テールが言わなければ掃除など手を着けない野郎どもばかりだと言うのに、黙々と片づけている。リーダーの帰りにやっと気が付いたリプトが言った。
「あ、キャット、塩あるか」
「塩?・・・何に使うんだ?」
「撒くに決まってる、二度とあいつらが来ないように」
「誰か来たのか?」
「名前を口にするのもイヤだ。また来そうな気がする」
 何の根拠もなく、「もしかしたら」と思い当たる人物の顔が瞬間的に脳裏に浮かんだが、・・・やはり部下たち同様に「二度と来ない方が良い」と思ったキャットは、黙って副官に塩を差し出したのだった。







■とういう事で!!!!!!
  神伊様の『ガーディアン』シリーズ、 孔雀と翡翠のお話を
  またしてもGET!です!ひゃっほ〜いvv
■今回は、神伊様のサイトで、ええーと、ミラー番?を踏み踏みしてGETしましたー。
  お題の中から選んで頂けると、との事だったので。
  『俺がいるじゃん?』と云う台詞をピックし、それをええもう当たり前のように(笑)
  大好き〜な孔雀に言わせて下さい〜とリクしたのでした!
  いやあ、相変わらず(笑)な二人の会話が楽しいですね!いいですね!
  こんな素敵なお話がたっぷりと拝読できる神伊様のサイトへ、
  さあ貴方も今すぐGO!だッ!!!!!!!
  そして貴方もキリ踏んで、孔雀のお話リクしなさい!
  (自分が読みたいからって、見知らぬ来訪者様にまで命令すんなよ……)
■神伊さんッ!素敵お話をありがとうございました!
  っちゅーか、頂いてからUPがこんな遅くなってしまってすみませんでした(爆)