Imitation Blue 舞台設定紹介文章
(『追憶の果て』より抜粋)
今から一体何年前の事になるのか、それすら覚えている人間がいなくなってしまう程、昔。 その頃、世界はありとあらゆる高度技術によって、治安維持が行われていた。 コンピューターが全てを統治し。人々はコンピューターによってもたらされる平穏な生活に傾倒していた。 何もかもがコンピューター制御で行われ、人々自らはただ命令すればいい、そんな便利で楽な生活。 だが、それが全ての元凶だった。 全てがコンピューターによるとはいえ、勿論それを制御するべきごく僅かな人間は、確かに存在していたのだ。それも将来には全てコンピューター制御で、そう望まれてはいたが、その実用化にまではあと僅か、そんな時期だった。 そのごく僅かな人々は、『主たる統率者(グランドマスター)』と言う名で呼ばれ、莫大な恩賞の元、より便利により幸福に、を目指し、さらなる技術開発に日々を費やしていたという。 そして。 そこに一人の科学者が、現れた。 それが、始まりだったのだ。 かつて、全てをコンピューターの制御下に置く事が決定された頃、数人の科学者が最も懸念した事。 私利私欲の為にそれを利用しようとする者が現れ得る、というその不安。 それが、現実となって現れたのだ。 既に形だけとなっていた各国の軍事施設。統治機関。交通機関。金融機関。人々の生活に最も関わりのあるそれらの機関を始め、ありとあらゆる機関が、それを制御する事が可能だった『主たる統率者』の内のたった一人によって、掌握された。 それは、人々を『楽園』から突き落とした。 無論、あがらう者も出て来た。 だが既に、遅い。 全てをコンピューターに託し、安穏とした日々に身を浸していた人々に、抵抗の手段など残されてはいなかったのだ。 刃向かおうとする者は、容赦なくその命を奪われた。 独裁者の如く全てを支配する、たった一人の人間に、世界中の何億という人々は、抵抗する事すら出来ず、ただ与えられる惨めな生活に耐え忍ぶ他に術はなかった。 だが、彼と同等の立場にいた他の『主たる統率者』は、黙っていなかった。 勿論、表立って刃向かう事はしなかったが、密かに彼らは反逆の時を待ち、着々とその準備に取り掛かっていたのだ。 明るみになれば間違いなく身の破滅に繋がるその計画に、だが彼らは臆する事なく立ち向かう時を待ち続け。 そして、世界を破滅へと導く、後に『破滅の日(ルーウィンデイ)』と呼ばれる事となった、運命の日が訪れた。 始まりは、大きな地響きだった。そして、暴風。 それが、爆発によるものだと気がつく者は少なかった。 だがそれは独裁者へと刃向かう為の、一次攻撃にしかすぎなかった。 世界の数十カ所に点在する軍次基地の約半数が、何の前触れもなく、たった一か所を標的に爆撃を開始したのだ。標的箇所は、独裁者と化した、かつての『主たる統率者』。 そして攻撃命令を下したのは、残り数人の『主たる統率者』達。独裁者に気づかれぬよう。数年の月日をかけて、彼らは独裁者の指揮下に置かれていた筈の軍次基地を取り戻したのだ。 だが、自己の周囲を幾重にも渡る防御施設で取り囲んでいた独裁者に、それは多少の被害をもたらしただけであった。 そしてすぐさま、報復攻撃が開始された。 それは、延々と続く、地獄絵図への狼煙となった。 世界は炎に焼かれ、いつ落ちてくるともわからない爆撃に人々は逃げ惑う。 その中で、人々の中にも争いが起き始めた。力ある者が暴利を貪り、あがらう術のない弱者が次々と犠牲になっていく。 数年にも及ぶ、『戦争』。 互いが互いに決定打とも言える術を持っているにも関わらず、それが長引いたのには無論理由があった。 それを使えば、確かに相手を殲滅出来るだろう。しかし、それと同時に自らも莫大な被害を被るのは避けられない。 その切り札とは、『核』、だった。 確実に世界を破滅へと導くその道だけは、互いに避けていたのだ。 しかし。数年に及ぶその争いに、独裁者と化していた科学者の精神は、耐えられず。ある日、彼はついに発狂した。 突如、彼は訳の分からない奇声を発したかと思うと、周りの者達の声も聞かず、いやそれどころか止めようとした側近達を斬り付け、制御ルームへと走った。 そして。厳重にガードされたそのボタンに、手をかけたのだ。 そして。自分が為したその行為が引き起こす、惨状を見る間もなく。そのまま彼は、己の喉を、手にしていた刀で掻き切り、命を断った。 それが、世界中を恐怖に陥れた独裁者の、あまりにも呆気ない、最期だった。 しかし、それで世界が救われた筈もなく。 男が命を断った、次の瞬間。世界は既に破滅への道を歩み出していた。 次々に核が世界中へと降り注ぎ。そして、一瞬にして世界は荒野へと姿を変えた。 幾人とも知れぬ人々が、死骸さえ姿を残す事なく命を失い。そして辛うじて生き残った人々は、核の後遺症に悩まされた。 遺された後遺症。それは無論、人々の体に遺された莫大な後遺症でもあった。 それから何世代にも渡り、生まれてくる子供達の90%は奇形児だった。そして、奇形を持たず生まれてきた子供達の大半は、何らかの障害を持って生まれ。正常な形態で生まれてくる子供は、何十分の一の確立だった。 今現在生存している『健康体』の人々の殆どは、結局『戦争』時に、シェルターと呼ばれる避難所に逃げ延びる事が出来た人々の子孫と、そして当時研究と言う名目で保存されていた精子・卵子との人工授精で生まれた子供達の子孫が大半になっている。 そして未だに核の後遺症を引きずっている多くの人々は、その健康体の人々の管理する管理病院に大半が収容されていた。 しかし、そう言った身体的な後遺症、それ以上に、大地が被ったそれらの方が、人々を苦しめた。 大地は荒れ果て、乾き切った大地には、生命が根を張り育つ事も出来ない。 かろうじて被害を逃れていた土地では、その土地を巡っての争いが起こる。 生命を宿す事が出来る、僅かな土地。放射能の影響を受けずに済んだ、地下水。それらは、荒れ果てた世界で、人々の目にはさながら楽園の様な物で。 争いは絶え間無く続いた。 無論、後にそこは、有力者と呼ばれる数人の人間に手によって支配・統治され。現在の都市機能を持つ場所へと移り変わって行くのだが。 けれど、それまでには長い年月がかかり。 その間に、幾人もの命が、核の後遺症や争いによって失われていった。 そうして。ようやく人々が核の後遺症から少しずつ脱し始めた現在。世界は数個の区分に分類されるようになっていた。それは即ち、人々の生活のレベルを表す物でもある。 都市機能を再び手に入れた、現在『オアシス』と呼ばれる、裕福な数箇所の地域。そこは、今現在の世界を運営する役割を持つ、かつての『主たる統率者』の末裔を中心とする有力者達の暮らす地域でもある。 次に都市機能を回復するまでにはいかなかったが、比較的核の影響が少なかった『ランド』と呼ばれる地域。『オアシス』の有力者達が梃入れをして、人々が普通に暮らせるレベルまで回復させた地域がそこに当たる。大半の人間が、いまはこの地域で生きている。 そして、核の影響がようやく消え去ったものの、未だ荒れ果てたままの『廃墟街(ルーウィンシティ)』と呼ばれる、いわゆる無法地帯。『オアシス』や『ランド』で何か犯罪を犯した者や、そこでの生活に馴染めず脱落してしまった者。その他、何らかの理由で二つの地域に居られなくなった者達が、この地区に住んでいる。 そしてそれらの間に広がる、砂漠と化した大地。 それが、今現在の世界の構図だった。 |