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住職法話集

願わくは(ねはんえのこと)

 涅槃会(ねはんえ)とは二月、あるいは三月頃に、お釈迦様のご命日にちなんで、お釈迦様をしのんで全国の仏教寺院で営まれる法要のことです。
日本文学の和歌の作者としてとても有名な西行(さいぎょう)法師が残したうたに次のようなうたがあります。

 願わくは花のもとにて春死なん

    そのきさらぎの望月(もちづき)の頃(西行法師)


 お釈迦様は、旧暦二月(きさらぎ)の満月の日(つまり2月15日)の夜にお亡くなりになったとされています。この和歌を詠むと、お釈迦様の「大いなる死」に対する西行(さいぎょう)法師の熱いおもいが、ひしひしと胸に迫ってきます。

 お釈迦様は今から約二千五百年の昔、お悟りを開かれた後、五十年近く、インドじゅうを旅してまわられ、行く先々で悩み苦しむ人々を救済なさいました。
当時のことですからご自分の二本の足だけがたよりの旅でした。さらにインドの厳しい身分差別社会のなか一切衆生ことごとく仏性あり(すべてのものに、等しくかけがえのない尊いいのちが備わっている)と説いてまわられたのです。
いろんな意味で、本当に困難な旅であったと想像されるのです。

 八十才になられたお釈迦様は、ご自分の死期の近いことを感じられながらも、病をおして、生まれ故郷を目指して旅なさいました。
そしてその途中重病となられ、クシナガラという所で、沙羅の木のもと、静かに息を引き取られ、涅槃に入られたのです。

 最後の旅路は、今日、バスで行けば十時間ほどの距離にしか過ぎませんが、お釈迦様は果たしてどのようなお姿とお心で歩かれたのでしょう。
杖をたよりに、わずかなおともを連れて、ゆっくりと畑の中の道を進まれる光景を想像すると、胸が熱くなってきます。

 「涅槃に入る」はお釈迦様がお亡くなりになった事を意味すると共に、煩悩(ぼんのう)の炎がすべて消えて安らかな境地にいたる、という大切な教えを意味します。

毎年、涅槃会を迎えるにあたり、お釈迦様に、そしてその尊い教えに思いを馳せる事は、忙しい現代の人々にとって意義深い、大切なことです。