平成十九年 久昌通信139号おもて
蚊のいのち
この夏は本当に暑い夏でした。
今年から天気予報の用語として登場した、最高気温35度以上の日を示す『猛暑日』が大活躍でしたね。
それにしても『猛暑日』は、耳で聞くだけでも汗が噴出してくるような響き・・・、何か他の言葉はないものか、いや暑苦しい言葉だからこそ『猛暑日』という言葉が選ばれたのでしょうか。
ところで、猛暑日の季節はもう終わったなどと安心は出来ません。
『暑さ寒さも彼岸まで』…すくなくともお彼岸頃までは『猛暑日』の日がやってこない保証はありません。
昼の猛暑日の話ではなくて、夜の話です。
夏の夜といえば蚊がつき物、その蚊のお話しをしたいと思います。
京都・本山の修行道場にいたとき
『昔(約4百年ほど前)、修行中であった愚堂(ぐどう)国師は、蚊の季節にうらの竹薮の中で一晩中坐禅をしておった。
朝になると、国師の周りには、血を吸いすぎて丸々と膨れ上がり飛べなくなった蚊の死骸が山のようにたくさんころがっておった』
という話を聞かされて、坐禅に励みました。
ものすごい数の蚊に血を吸われているのも気にならないほど坐禅に集中していた、ということです。
その真似はとてもできませんでしたが、坐禅道場では、夏の夜には坐禅堂(寝起きの場所でもあります)の障子を開け放し、蚊取り線香をくゆらしながら、暑い中で歯をくいしばって坐禅に励んだ思い出があります。
蚊がいっぱいいる藪がすぐそばでしたので香取線香は夜の坐禅の必需品でしたが、翌朝坐禅堂の中を掃除しても、蚊の死骸を発見することはありませんでしたから、蚊取り線香は、匂いを出して蚊を寄せ付けないようにする為のもので、『蚊を取る』為ではなかったように思います。
つまり蚊を殺してしまうのが目的ではなく、蚊を遠ざけ、蚊も生きのび、修行者達も坐禅に集中できるようにすることが目的だったのです。
少し話が変わりますが、近年蚊が真冬近くになってもまだ存在し、中には冬を越す蚊さえいるのを耳にした事があります。
その背景には『殺虫剤』の効力が増し、よく効くようになったことが上げられます。
一見矛盾しているようですが、これがどういうことなのか説明しましょう。
殺虫剤がよく効くことによって、蚊がほとんど全部死んでしまいます。
しかし何万匹、何十万匹という蚊の中には、突然変異で生まれ、殺虫剤が効かず、寒さに強い遺伝子を持った蚊がおり、その蚊だけが生き残るのです。
その蚊は、ライバルがいないので(ライバルとなるべき蚊は殺虫剤で死んでしまっています)自由に交配しつづけ、後に新しく生まれる蚊は全部殺虫剤が効かず、寒さに強い遺伝子を持った蚊ばかり、ということになるのです。
最近、医学の世界でも、多くの病気に効果があるはずの抗生物質が効かない病気があり、随分深刻な問題になっています。
私は専門家ではないのでよくはわかりませんが、医薬品と病気の関係も、殺虫剤と蚊との関係に似ているようです。
我々人間の身の回りの環境を改善しようとするちょっとした工夫が、重大な結果を招く可能性がある、という事を忘れてはなりません。
『蚊のいのち』といえど決して軽視できないのです。
蚊をボトボト落とすような蚊取線香より、あまり効かない蚊取線香の方がお勧めです(営業妨害になるかな?)。
久昌通信130号うら
黄色い財布と緑の財布
新聞の折り込み広告の中に、緑色の財布を持つと非常に縁起がよい、お金がたまりますよ、という広告が入っていました。
とても大きな折り込み広告で、その種の広告の例にもれず、(広告にある)この財布を持って以来、パチンコで大もうけできたり、宝くじがあたったり、またすこぶる商売がうまくいったりなどの、何人かの体験談も載っています。
3万円ぐらいの高価な財布の広告でしたから、「こんな高いの買ったら、中に入れるお金がなくなって貧乏になっちゃうよ」というのが、妻と娘達の一致した意見でした。
私が一番に思ったのは『おいおい、私の持ってる黄色い財布はどうしてくれるんだ?』ということでした。
しばらく前には、これと同じような広告で、黄色い財布が(中国の風水とやらによると)とても縁起が良くて、その財布を持てばみんなお金持ちになれる、と宣伝していたのです。折り込み広告が言うだけでなく、『黄色い財布は縁起がよい』のは一般常識だと思っておりました。
だから私も黄色い財布に変えていたのです。
以前から使っていた財布が古くなって使いにくかったこともあって。
ただ、その広告にあるような高価な財布ではなく、デパートの安売りで2000円ほどの財布です。
安い財布なので、効能が全然ないかと思っていたら、ありました。ビックリです。
どういうことかといいますと…黄色い財布は非常に目立ちます。
人に見られるのが恥ずかしいほどです。
したがって人前で財布を出すような機会はあまり作りたくない、すなわちあまりお金を使わない→お金がたまる、という結果になるのです。
それは冗談として、あるときは黄色い財布が良いと言い、またあるときは緑の財布が良いと言われる我々はいったい何を信じればよいのでしょうか。
以前、テレビの星座占いで、『新』おうし座生まれの人の今日の金運は?とか『新』さそり座生まれの人は今日は何でもうまく行く、などそれぞれの星座に新がついていたことがあります。
何故『新』がつくのか、もっともらしい理由があった様ですが、現在はその新はなくなっています。随分いい加減なものだというしかありません。
仏教の根本的な教えに八正道(はっしょうどう)があります。読んで字のごとく八つの正しい道をお釈迦様が示されているのです。
その八つの道と簡単な意味をここに示します。
正見(しょうけん)…正しい見方
正思(しょうし)…正しい思惟
正語(しょうご)…正しい思いやりのある言葉
正業(しょうごう)…正しい行い
正命(しょうみょう)…正しい清浄な生活
正精進(しょうしょうじん)…正しい努力
正念(しょうねん)…正しい願いを念じる事
正定(しょうじょう)…迷いのない静かな境地
八正道の入り口が正見です。
ものごとの正しい見方、間違いのない観察をすることによって、迷いのない静かな境地(正定)にたどり着けることでしょう。
その折にはもう黄色か緑かで迷うこともないでしょう。