Honey Drops
《OPENING SIDE K.S》 「どうした?反町」 「へ?あ、ああ、おはよう松山」 「おはよ。で?俺の問いかけに対する返事は?」 「へ?何?」 「何、じゃねえよ、ったく。ボケーッとしちまってさ。何かあったのか?」 「えー?別に何もないけど、どうして?」 「だから、ボケーッとしてたからだよ。いや、ボーッとしてたっていうよりは、考え込んでたっぽいけどさ」 松山の言葉に、二人並んで食堂から自室へと戻る廊下を歩きながら、反町は思わず黙り込む。 「反町?」 「ちょっと考え事、してた」 「どうしたんだ?」 「んー、別に大した事じゃないからさ」 「本当にか?」 「あ、何だよ、その言い方。酷いわっ疑ってるのねっ」 「疑ってる」 「……松山ー」 冗談っぽく話題を流そうとした言葉に、きっぱりと返答をされてしまって、反町は情けない声音で松山の名を呼んで、項垂れた。 「少しはさー、こっちの意図を察して軽く流してくれてもさー……」 「そりゃあ普段ならそうしたかもしれないけど、今日はダメ」 「どーしてっ」 「深刻そうだから」 「っ……」 「ホラ、言い返せないだろう?だったらやっぱり、それだけ深刻なんだよ。相談ぐらいしろよ、水臭い。俺だと役に立たない事なんだったら、それこそ日向とか若島津、呼んでやるしさ」 「若島津はダメッ!」 「へっ?」 目一杯の否定の言葉に、松山はそう間の抜けた声を零し、目を丸くした。 そして、否定の声を上げた本人も、自分の零した言葉に驚いた様に目を丸くし、そして青ざめる。 「……何?若島津はダメって、喧嘩でもしてるのか?あいつと」 「あ、いや、違う。そうじゃないんだけど、でもとにかくダメなんだってば」 「ああ、じゃあ考え事の対象があいつなのか?」 「……どうしてこう松山ってさあ……話を逸らすとかの気遣いをしてくれないんだろう……」 「え?あっごめん!別に悪気があるわけじゃあっ」 「うん、それは解ってるけどさ」 そう答えて。反町は思わず大きな溜め息を一つ零してしまう。 「反町?」 「本当は、さ。相談って言われても、俺にも何をどう相談すればいいのか、よく解らないんだ」 心配そうな松山の声に、反町は正直にそう答えた。そう、それが本当の所だった。 「ただ何か、さ。この辺が」 そう言って、反町は自分の胸を指さす。 「もやもや、してる。何かさ、おかしいよなあ、って」 「……若島津が?」 「うん。何がどうおかしいのかって、それはよく解らんないんだけど、でもやっぱりおかしいんだよ。でも具体的にどうこうってのが全然解らなくて、ただずーっとこの辺りがもやもやしてる。解らないのがもどかしくって、イライラする。……ただそれだけなんだよ、本当に」 「うーん……」 そう唸る松山の声に、反町はクスクスと笑ってみせる。 「ヤだなあ松山。そんな真剣に唸るなよ。本当にただ何となくそんな感じがしてるだけでさ、実際は俺の気のせいかもしれないんだしさ」 「でも反町は気にしてるんだろう?」 「ん−、まあ今はね。でも平気。多分すぐに気にしなくなるよ。ホラ、俺って結構飽きっぽいから」 「そういう問題かあ?」 松山のその声にクスクス笑いながら、反町は辿り着いた自室のドアに手を伸ばす。 「じゃあな、松山。また後で」 「ああ、じゃあな」 そう答えて、更に奥になる自室へと向かう松山の後ろ姿を見送って。そして反町は、小さな溜め息を一つ、つくのだった。 本当に、何がどうおかしいと言うのかが、良く解らなかった。 実際、別に今までと何も変わりがないようにも思えるのだ。けれど、ふとした時に、妙な違和感の様な物を、最近感じる事があった。ただ、それだけだ。 でも、それが妙に引っ掛かる。無視出来なくて、イライラする。 何だろう。どうしてだろう。 どうして自分は若島津の様子が変だなんて、思うのだろう。 だって別に周りの誰も、そんな事を感じている様には見えないのに。 そう。他の誰よりもきっと若島津との付き合いが長く、そして親しい筈の日向さんですら、そんな事を感じてないみたいなのに。なのに、どうして自分はそんな風に思っているんだろう。 もしかして何か彼を怒らせる様な事を、自分はしてしまったのだろうか。だから彼の態度が、自分にだけ、変なのだろうか。 でも。 別にそんな事をした覚えは丸でなくて。 考えれば考える程、解らなくなって。結局、益々イライラ・もやもやを溜め込むだけ、と言うことを、実はこの一・二週間、反町は繰り返しているのだった。 《OPENING SIDE K.W》 どうも近頃、自分は変だ、という自覚が若島津にはあった。 と、言うか。 その感情は、きっともうかなり以前から抱えていたもので。今更に始まった事ではない。 にも拘わらず、だ。 近頃の自分は、今迄上手く抑えていた筈のその感情を、上手くコントロール出来ていないようなのだ。困った事に。 「さて、どうしたもんだか……」 一人グラウンドへ向かいながら、無意識にそう呟いたその直後。 「何を悠長に呟いてやがるんだ、お前は」 後方からそう言われ、若島津は振り向いた。 「ああ、日向さん。おはようございます」 「おはようございますじゃねえよ、ったく。お前、反町と喧嘩でもしてるのかよ。……って喧嘩だったなら、もうちっとはマシな状況になってるか」 「はい?」 「はい、じゃねえっつの。お前まさか、自覚がないとか言うんじゃねえだろうな?……最近、変だぞ、お前の態度」 「態度って……別に真面目でしょう?俺よりも日向さんの方が問題大有りなんじゃないですか?」 「どういう意味だそりゃっ。別に普段の生活態度の事を言ってるんじゃねーんだよ俺はっ。解っててはぐらかすなっ」 「余計に訳が分かりませんよ、それじゃあ」 苦笑しつつ、そう答えたものの。 内心では、ああやっぱり気付かれたか、と呟いた。付き合いが長い分、迂闊に隠し事が出来ない。どれだけ気を付けていても、バレてしまう。 それはお互い様ではあるのだが、いざ自分が気付かれる立場になると、厄介だ。 「そうやって、はぐらかすな。反町だよ、反町」 静かな声で、それでもそう断言されて。若島津は軽く肩を竦めた。 「やっぱり、気付かれましたか」 「だから悠長に言ってるんじゃねえっつうの。お前なあ、今はまだ良いけどな。本人がもし気が付いたら、あいつの事だから落ち込んじまうぞ」 「……ですかね」 「って、俺よりもあいつの性格を把握してる奴が何ぬかしてやがる」 「してませんよ、そんなの。俺のはね、もう駄目ですよ。偏ってますから、見方が。……だから、大変なんです」 最後の一言は、本音だった。彼以外には決して零す事の出来ない類いの。 「バーカ、甘えてんなよ」 そして、それを解っているからこそ、日向は容赦ない一言を返す。 「とにかく、だ。どうしてだ?今迄、上手く抑えてたじゃねえか。それが今更」 「解りませんよ、そんな事。解ってたら、今こんなに困ってません」 「……ったく。お前さあ、すっげえ大人ぶって、あいつを困らせたくないだ何だ言ってたのが、今頃歪みになってんじゃねえのか?」 「歪み、ね……。そうかもしれませんね」 若島津はそう言って、苦笑を浮かべた。 「情けないですね本当に。でも、やっぱり困らせたくはないですからね。何とか考えますよ、ここは。そうじゃないと今迄の努力の意味が、ない」 「………あのなあ、若島津」 暫しの沈黙の後、深刻な声音で日向は若島津の名を呼ぶ。 「はい?」 並んで歩きながら、若島津は短くそう答えた。 「前にも言ったけど、やっぱりそのマイナス方向への努力が良くねえんじゃないのか?」 「マイナス、ですかねえ。まあ、俺だけの事を考えればそうでしょうけど。でも、俺が最優先に考えてるのは、あいつにとってのプラス・マイナスですからね……。だから、やっぱり言えませんよ。どれだけ日向さんに言われてもね」 「妙な所で頑固だよな、お前は」 「仕方ないでしょう?やっぱり、大事ですから、あいつが」 「ったく。変な所で弱気見せやがって。こういう時にこそ、お前のあの厭味な位の強気が必要なんだろうに」 「無理ですよ、それは」 そう強い口調で言い切った若島津に、日向は目を丸くした。日向のその反応に、小さく苦笑しながら、若島津は続ける。 「やっぱり、それは無理ですよ。……本気な分だけ、後が怖いですからね」 今の関係を失うのは怖いですよ、やっぱり。そう呟く様に付け足して、若島津は気持ちを切り替える様に、軽く頭を振った。 「さて、と。そろそろランニング、開始しますか?日向さん」 「ああ、そうだな」 そう答える日向と共に、若島津は朝練へと合流するのだった。 日向の言う変な態度、とは何か、なんて。そんな事、自分が誰よりも一番よく解っていた。 まるで避けている様な行動を、気が付けばつい、取ってしまっていた。それは周囲に解る程顕著な物ではなく、本当に僅かな変化なのだが。 気を付けていなければ、今の自分は何をしでかしてしまうか、解らない。その自覚があるからこそ、今の状態では彼に近づく事をどうしてもためらってしまうのだ。 どうして、こんなにも彼にとらわれてしまったのか。今となってはそのきっかけすら思い出せない程自然に、彼に魅かれてしまっていた。 それまで。サッカー以外の事に、こんなにも囚われてしまう事があるなんて、思ってもいなかった。 特定の誰か一人に入れこむ、なんて。自分はそんな感情とは縁遠いと、信じて疑っていなかったと言うのに。 あっさりと若島津の内に入り込んで来たのが、反町なのだ。 手に入れたい。けれど、失えないから。 だからこそ、ずっと抑えて来た感情。彼への想い。 けれど。それでも日増しに強まっていく欲求。 そう。どれだけ悟り切った様に押さえ込もうとしていても。彼を求める、自分のこの醜い感情は、きっと消せない………。 03/05/15 UP |
■というわけで。はい。プロローグ部分です。
続きはまだ書けていません。いえ、書きかけで止まってます。
なので実はタイトルも決まっていなかったのです。
今回慌てて考えました。しかし……なんでこんなタイトルに…;;
本文に関係のあるタイトルになるか否か、本人とっても不安です…;;
■当方で発行済みの松小次本(既刊2冊)内での若反は既にカップルvvなのですが、
その出来上がっちゃうまでの過程のお話ですー。
ので、これに登場の日向と松山はまだ出来てません(笑)
とりあえず、ゆっくり少しずつUPして行きたいと思います。