風の記憶

 プロローグ



「ここはね、風の通り道なの」
 彼女はそう言って、微笑んだ。
「そして、私の家は代々その風の道を護り続けてきたの。ずーっと昔から。気の遠くなる程昔から、護り続けて来た。それが、私達の……私の誇りよ」
 そう言いながら、ゆっくりと彼女は空に向かって両手を差し伸べた。
 雲の切れ間から差し込む陽の光に照らされたその姿。不意にそよぎ始めた涼風になびく、漆黒の髪。
 記憶の内に鮮明に残されたその姿。
 神々しいまでに美しく、そして儚いその姿。
「誇り、なのよ」
 繰り返される、その一言。悲しいまでに意志的な言葉。
 いつだって彼女は風を纏っていた。
 そう、その時も。
 護るように、そして拒絶するかのように。

『誇り、なのよ』


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