■風の記憶■
プロローグ
「ここはね、風の通り道なの」 彼女はそう言って、微笑んだ。 「そして、私の家は代々その風の道を護り続けてきたの。ずーっと昔から。気の遠くなる程昔から、護り続けて来た。それが、私達の……私の誇りよ」 そう言いながら、ゆっくりと彼女は空に向かって両手を差し伸べた。 雲の切れ間から差し込む陽の光に照らされたその姿。不意にそよぎ始めた涼風になびく、漆黒の髪。 記憶の内に鮮明に残されたその姿。 神々しいまでに美しく、そして儚いその姿。 「誇り、なのよ」 繰り返される、その一言。悲しいまでに意志的な言葉。 いつだって彼女は風を纏っていた。 そう、その時も。 護るように、そして拒絶するかのように。 『誇り、なのよ』 |