お礼SS第3弾 *** 逃げたいとどうして思ったのだろう ***  (仙越)



 目の前の真剣な顔に。
 笑い飛ばす事がどうしても出来なくて、困惑を隠す事も出来ない。
 視線を逸らす事さえ許されない雰囲気。
 呼吸1つ、それだけでもひどく意識しないとままならない、そんな自分をどこか妙に冷静に観察している部分もあって益々意識は混乱する。
 逃げたい、と。
 紛れも無く本心でそう考えている自分が確かに存在する事。
 その事に対する、自分の中にある明らかな動揺。
 逃げたいだなんて。どうしてそんな事を考えてるんだろう。
 好きだ、なんて。今まで呆れるホド聞かされた言葉だったはずなのに。
 どうして今日に限って、こんな……。


 わかってる。本当はわかり過ぎるほど、わかってた。
 いつもいつも必ず用意されていた逃げ道。
 それが今は塞がれている。


 どれだけ自分が許されていたのか、突き付けられた気がした。
 いや実際に突き付けられているんだ。
 でも、何故。今、この瞬間なんだと。
 言い募る事が出来ない。それが現状を受け入れなければならない事と同意だから。
 この瞬間にですら、逃げ道を求めてる自分。


 息が詰まる。
 逃げているのは自分なのに、逃げ道を塞ぐ目の前の男を責めたくなる。
 どうして今になって逃がしてくれないんだ、と。それがどれだけ自分勝手な事なのか、それは嫌というほど分かってるけれど。


   壊したくないだけなのに。
 呟いた言葉が届いたのか、目の前の顔が少しだけ微笑む。
   知ってるよ。
 そんな言葉が返ってきて、益々逃げ道が無くなった事を思い知る。
 それでも選べと、そう告げる瞳に。


 無くすものと得るものとを考えながら。
 初めてその強い光をたたえた瞳を見返した。






  第3弾は、お題を使用しました。
  使用お題は先頭にも記載してますが、『逃げたいとどうして思ったのだろう』です。
  お題を拾ってきて、お題部屋を作ろうと思っていた時期があり、
  (いやこれは現在進行形で目論んでいるコトなんですが)
  その中の1つを使って書いた話でした。
  最初は別に仙越を意識してたわけではなくて、書いてく内に、「あ、仙越かな」と。



         


 イメージイラストを頂いてしまいました!
 素敵イラストへはコチラからw