■Imitation Blue■
8.好機、あるいは転機
その日、僕は【守護者】としての任務を負って、ある施設へと向かっていた。 配給された、と言うよりは、元々僕仕様で特別に開発・制作されたゴーグル型の小型コンピューターの画面に、目的地が指示される。 特に意識せずにその地点を確かめた僕は、次の瞬間目を見張った。 見覚えのある、その地図。 改めてその地図を確認し、そして倍率を下げると周囲を含めた地図を確認する。 ……間違いない。 それは。何度も何度も、いつか役に立つ筈だからと頭の中に叩き込んでおいた、その地図だった。 僕の、【守護者】ではなく崎守創の、目的地。 僕が僕自身を取り戻す為に、あるいは消し去る為に。その為にどうしても訪れなければならないと、そう心に決めていた、本当の目的地。 漸く、チャンスを手に入れた。 この手を罪に染め上げて、それでも目指したその場所が、漸く手の届く範囲まで近づいたんだ。 素早く現在位置と目的地までの方角や距離・周辺地図をも記憶の中に叩き込み、僕は深く息を吸い込む。 そして。 発信機も兼ねたゴーグルを投げ捨て、走り出す。ついでとばかりに、ゴーグルを踏み潰すオマケ付きで。 予想だにしていなかっただろう僕の狂行に、数メートル離れた位置から僕を見張っていた監視員達が、慌てた様に物陰から飛び出してくるのが視界の隅に映ったけど、勿論そんなのは綺麗サッパリ無視をする。 念の為にと携帯している筈の麻酔銃を使う暇さえ与えずに、僕はその場から走り去る。常人離れした脚力を最大限に発揮して。 次々と景色が後方に流れて行く。 道行く人には突風が吹いたとしか思われないだろうし、とてつもなく動体視力の良い人間が居たとしても『人が走り去った』とは、とてもじゃないが信じきれないだろうスピードで、僕は走る。走り続ける。 そして、走り始めてから十数分後。僕は目的地へ辿り付いていた。 高い塀に囲まれた、厳つい建物。 【果て無き報い】と陰では人々からそう呼ばれている、その獄舎。罪を犯し、その罪の重大性から身体の一部を機械化され、半永久的に服役を義務付けられた人々の住む、人の命さえも管理した狂った牢獄。 その奥深い建物内に、その人は居る筈だった。 僕を殺した、その人が。 |